公益社団法人生命保険ファイナンシャルアドバイザー協会 Japan Association of Insurance and Financial Advisors

JAIFA公式LINE

公益社団法人生命保険ファイナンシャルアドバイザー協会 Japan Association of Insurance and Financial Advisors

Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2024年11月号掲載

最近の相続対策は死亡だけではありません
~長生きによる介護リスク~

この記事を
みんなにお知らせする

みなさんこんにちは、FP塾講師の狩野です。
前回(10月号)の記事までで一般的な相続手続きの流れ(相続人の確定、相続財産の確認、遺産分割の手法)を見てきました。そして、遺産分割がもめる要因には様々な事情があることについて触れてきました。

今回は、人生100年時代を考える上で、「最近増えてきた相談事項」と「これからの相続対策において考えるべきこと」を述べたいと思います。

人生100年時代における相続対策

まず、改めてこの連載の根幹となる「生命保険が相続対策に強い理由」5つを挙げさせていただきます。

  1. ❶ 相続発生後にすぐに現金化できる
  2. ❷ 死亡保険金は相続放棄をしても受け取ることができる
  3. ❸ 遺産分割・相続税納税の両方の資金を捻出することができる
  4. ❹ 死亡保険金は受取人固有の財産のため、原則遺産分割協議の対象外である
  5. ❺ 人生100年時代においては遺族生活費として役に立つ

今回はの人生100年時代における相続について考えます。イメージにすると〔図1〕の通りです。

◎スマホでは図を横スクロールできます。

そのうち、今月はこれからの相続対策に考慮する必要のある「老後の生活資金リスク」と「介護・認知症リスク」について解説します。

老後の生活資金リスクとは

長生きすること自体は素晴らしいことです。ただその間も当然生活費はかかります。年金だけで足りればよいですが、年金だけでは決して楽な暮らしはできないと思いますし、何らかの事情で大きな出費がある時には預金を取り崩すこともあるでしょう。

また、後期高齢者であっても社会保険料(健康保険料・介護保険料)は支払いますし、病気やケガで思った以上の出費を伴う場合もあります。その結果として、生活資金が心もとなくなり、「子供の世話になる」「行政の助けを借りる」などの対応が必要になってくるケースも考えられます。

あくまで一般論にはなりますが、男性より女性の方が長生きですので、ご主人様の相続発生(一次相続)から奥様の相続発生(二次相続)までの間の生活資金等もしっかり準備しておく必要があると考えられます。

また、共働き夫婦が増えたというものの奥様の方がご主人様より収入が低いケースがまだまだ多いので、奥様ご自身で老後資金を貯めておくにも限界があります。そこで生命保険です。

仮にご主人様の相続が発生した際に現預金のままですと、遺産分割協議を経て遺産分けとして奥様に現預金が満足に渡らない可能性もありますから、遺産分割協議の対象にならず、受取人を指定できる生命保険は奥様の老後資金の準備に非常に役立ちます。

相続対策には定期的な点検が必要

そして、相続対策において重要なのは、提案時と相続発生時に相続財産構成が大きく変わっていると、事前に行った相続対策も修正を迫られるという点です。

どういうことかと言うと、過去の連載でご紹介してきた代償交付金準備や納税資金準備などの相続対策も、被相続人が元気な頃は「相続財産〇〇万円があると『仮定した』場合、お申し出の遺産分割のご意向だとこれくらいアンバランスになります。ですから、その結果起こるリスクに対処するためにお金を生命保険で用意しましょう」という流れで提案することが多いです。

しかし、相続が発生してふたを開けてみると、思った以上に現預金が減っており、現預金を相続する予定の相続人とそれ以外(不動産等)を相続する相続人との差が大きくなった結果、代償交付金の額も当初の想定以上に必要になったということが起こり得ます。

また、思った以上に現預金が減っていた結果、納税資金が足りなくなることもありますし、生活資金が足りなくなったため不動産が売却されており、そもそもの資産構成が変わっていたなども可能性としてあります。

また余談ですが、私が信託銀行において遺言を作成していた時にあった話です。遺言を作成したお客様が長生きした結果、先にお子様にご不幸があって、法定相続人の内訳が変わってしまい、遺言者の思っていたような遺産分けが出来なくなったということもありました。

このように長生きすることによって財産構成が変わったり、相続人の構成が変わったりする可能性もあるため、すべてのリスクに対応することは難しいですが、可能であれば金額に幅を持たせた提案をする、今の相続対策で大丈夫か定期的に点検をするなどが必要になってきます。

介護・認知症リスクとは

最近、相続の相談で増えたなと感じているケースが「親の介護を請け負った子(相続人)と、親の介護に非協力的だった子(相続人)とで同じ法定相続割合で遺産分割をしなければならないのか」という相談です。

相談相手が介護負担を負った相続人からであれば「介護負担を負った分、財産は多めにほしいが、他の相続人が平等を主張してくる」、相談相手が介護をしなかった相続人からであれば「介護を手伝ってなくても法定相続割合は一緒ですよね?」といった具合です。

第5回(6月号)の連載でも取り上げましたが、法定相続割合はあくまで目安であり、必ず法定相続割合通りに分けなければいけない、という訳ではありません。遺言や遺産分割協議等で変更することは可能です。

よって、親の介護を頑張ったので多少相続財産を多めにもらって報われてもよいのではないかと考えて、遺産分割の割合を多めに主張することもあります。

しかしその一方で、介護を手伝わなかったのはそれなりの理由がある(親と過去にいろんな軋轢があった等)、それでも法定相続割合は民法で認められた権利だという考え方も存在します。

一応、介護負担を遺産分けにおいて考慮する「寄与分」という考え方があります(今後の連載で取り上げます)が、その多くは家庭裁判所で白黒決めるケースが多く、活用するにもハードルが高いものとなっています。

また、介護を頑張った、という話をよくよく聞くと、実は公的介護保険を活用して介護ヘルパーさんにお任せし、本人は語っているほど負担しているわけではなく、他の相続人から指摘を受けるケースもあります。

何が言いたいかというと、「子供たちの仲が良かった」としても、このように親の介護を経て関係性が変わるケースもあるということです。

相続アプローチをしていると「仲が良いから、うちは子供たちで上手くまとめてくれるでしょう」と取り合わないお客様も多いですが、介護リスクによる「まさか」は今後どんどん増えてくるものと考えています。

介護のリスクに生命保険

介護についてはその人の年代や環境などによってなかなかイメージが湧きづらい方もいらっしゃると思います。

実際、現在要介護状態になっている方を年代別で見ると、〔図2〕のように75歳以上の後期高齢者が80%超えとほとんどを占めています。

後期高齢者ともなると普通は保険に入るハードルも高かったり、何か対策をしようとしても遅い可能性がある年代です。よって、本来は早いうちから介護リスクに備えておく必要があります。

また、要介護状態になった原因を見てみると、様々な原因が挙げられますが、〔図3〕のように認知症が最も多いことが分かります。

認知症になると、自身の意思能力がだいぶ低下している状態ですから、保険加入はもちろん、相続対策などもできなくなります。そういった意味でも早めの対策を考えておいた方がよいでしょう。


自身が要介護状態になっても極力子供に負担をかけず、子供たちの関係性を良好に保つためには、例えば介護サービスがある施設入居の検討や、自宅をバリアフリー化するためのリフォームの検討・介護用ベッドなどの機器の導入などによる作業負担の軽減等、様々なものがあろうかと思います。

ただ、当然これらには費用がかかります。生命保険文化センターの調査によると、〔図4〕のように介護に要した費用として一時的な費用の平均は74万円、毎月家族が支払った費用は平均8.3万円です。

◎スマホでは図を横スクロールできます。

少なくともお金の面に関しては子供たちに迷惑をかけることなく準備しておくことが望ましく、現預金で準備できればよいのですが、生活費を圧迫する可能性もあります。そこで生命保険です。

あくまで公的介護保険の活用がベースとなった上での話になりますが、それでも前述のデータのように少なからず出ていくお金があり、負担になる可能性もありますから、事前に生命保険等で準備をしておき、万一の際には預貯金の外から費用を補てんできるようにしておけば、ご家族も安心されると思います。ぜひ、今後は介護保障も視野に入れた提案を心がけましょう。

プロフィール

狩野 新平(かのう しんぺい)株式会社シャフト

CFP・1級FP技能士
信託銀行での資産運用相談・遺言コンサルティングや、外資系保険会社での法人・相続研修および法人・相続の案件相談業務を経て、現在FP塾の専任講師。主に初学者・中堅層向けのセミナーを担当。現在「相続スタンダードセミナー」を毎月開催中。

FP塾HP▶ https://www.fp-school.com/

この記事を
みんなにお知らせする

この記事が載っている号

広報誌「Present」2024年11月号

記事一覧・電子版PDFのダウンロード

JAIFAに入会したい方へ

JAIFAの会員制度についてや入会方法についてご案内しております。
メールフォームでの入会も可能です。