何回かにわたり贈与税について説明してきたが、今回はその仕上げとして贈与税の申告について。折しも税務申告の季節を迎えているが、贈与税は税額がゼロであっても申告が必要なケースがある
税務署が贈与額を把握
A 贈与税は、贈与を受けた人が自ら税額を計算して申告、納付することになっている。つまり、黙っていても税務署から納付書が送られてくるという仕組みではないんだ。
B もし、申告しないとどうなりますか?
A その場合は税務署が、贈与があったことを把握すれば連絡がくる。場合によってはペナルティとして重加算税などがかかることがある。
B 正直に申告しないとだめですね。
A そのとおりだよ。贈与税の申告は贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに行うことになっている。ちなみに3月15日というのは、所得税の確定申告の期限と同じだよ。
B 贈与額が基礎控除110万円以下の場合は税金はかからないから申告は必要ないですよね。
A そうだよ。110万円を超えた場合は申告が必要になる。
B 相続時精算課税を選択した場合は、たしか特別控除が2500万円なので、2500万円以下であれば申告は必要ない……。
A ふつうはそう考えるかもしれないが、相続時精算課税の場合は、2500万円以下であっても申告が必要なんだ。
B 2500万円以下なら税額はゼロなのに?
A そう、税額がゼロであっても申告が必要なんだ。というのは、相続時精算課税による贈与は、将来、贈与者の相続の際に税額を精算することを前提にしている。そのために、税務署はいくら贈与があったかを把握しておく必要がある。だから、税額がゼロであっても、「いくら贈与を受けました」「相続時精算課税を選択します」ということを申告する必要があるんだ。
B なるほど……。面倒くさいですね。もし申告しないで放っておくとどうなりますか。
A 特別控除を受けられないことになる。別の言い方をすれば、相続時精算課税は、申告することを要件に、特別控除が認められるということだよ。それと、相続時精算課税について注意しておくべき点は、一度相続時精算課税を選択すると、同じ贈与者からの贈与についてはずっと相続時精算課税で申告する必要があるということだ。
B どういうことですか?
A 相続時精算課税では累積で2500万円の特別控除があり、これを超えた場合は20%の税率で税金がかかるが、贈与額が2500万円を超えたからといって暦年課税に戻ることはできない。
B 二度と基礎控除110万円は使えない……。
A そういうこと。いったん選択したら、その後贈与があった場合、すべて —— 贈与者が死亡し相続が開始するまで —— 相続時精算課税で申告し続けなければならない。たとえ税額がゼロであっても。
特例適用は要申告
B やはり相続時精算課税はいろいろと面倒ですね。暦年課税なら税金がかからなければ申告しなくていいから、すっきりしていますよね。
A 暦年課税でも、税額ゼロの場合であっても申告が必要になるケースはあるんだ。具体的には先月号(2022年1月号)で説明した特例の適用を受ける場合だよ。
B 特例は4つありました。
A まず、「贈与税の配偶者控除」。配偶者に住宅を贈与した場合に2000万円の控除が受けられるが、その結果税額がゼロになる場合、申告が必要になる。「住宅取得等資金の贈与の非課税」 —— 父母や祖父母から住宅を取得するための資金の贈与を受けた場合の特例 —— により控除を受けた結果、税額がゼロとなる場合も申告を要する。
B あとは、教育資金と結婚・子育て資金の贈与でしたね。
A 「教育資金一括贈与の非課税」「結婚・子育て資金一括贈与の非課税」の特例はちょっと扱いが変わっていて、通常の —— 翌年3月15日までの —— 申告は必要ない。これらの特例を受けるためには信託銀行などに専用の口座を開設してそこに贈与する資金を預け入れておく。
B 贈与を受けた人は必要な都度引き出して使うということでしたね。
A そうだよ。それで、最初に口座を開設するときに、信託銀行等を通じて「非課税申告書」を税務署に提出することになっているんだ。通常の申告とは形が違うが、やはり税務署は贈与があったことを把握する仕組みになっているよ。