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Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2022年3月号掲載

年金を何歳から受け取るか(後編)

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先月号(2022年2月号)で、平均余命からみて、統計的には、繰下げ受給のほうが受取総額が多くなることがわかりました。けっきょく、繰下げは有利なので、繰り下げたほうがいいということでしょうか。

先月号でも述べたとおり、平均余命や年金受給の5年の時効を考えると、可能であれば70歳まで繰り下げることは魅力的な選択肢ではあります。ただし、年金を損得で考えるのは適切ではありません。公的年金は長生きというリスクに備えた保険です。受取総額の損得にかかわらず、繰下げで、より大きな安心を得るという視点が重要ではないでしょうか。

統計的には「70歳支給開始」

先月号で、受給開始を66歳以降に繰り下げた場合、65歳受給開始の場合の受取総額を逆転するのは、何歳に繰り下げても12年後であること、そして75歳までの各歳の平均余命はいずれも12年を上回ることを説明しました。今回は少し見方を変えて、71歳以後に受給を開始した場合に、70歳から受給した場合の総額を上回る可能性について考えてみましょう。

71歳以後に繰り下げた場合に、70歳受給開始の場合の受取総額に追い付く年数は16・9年です(75歳までの何歳に繰り下げてもこの年数は変わりません)。すなわち17年経てば70歳受給開始の総額を逆転できます。これを各歳の平均余命と比べてみると、男性の場合、残念ながら逆転できません。女性の場合は74歳までは17年を上回りますが、75歳から受け取り始めた場合は逆転できません。

ちなみに、70歳以降に繰り下げた場合に、69歳受給開始の総額を逆転するには16年かかりますが、男性の場合、70歳受給開始ならぎりぎり逆転することができますが、71歳以降の平均余命は16年を下回ります。ということで、平均余命による統計的な結論は、男性の場合は70歳受給開始が正解、ということになります(女性の場合、72歳受給開始なら71歳受給開始の総額を逆転できますが、73歳受給開始では72歳受給開始の総額を逆転することはできません)。

損得勘定で考えるな

ただし、これはあくまでも机上の単純な損得計算です。実際には、加給年金や振替加算は繰下げによる増額の対象にならず、一方で繰下げ待機中に受給できない分がまるまるマイナスになる、65歳以降も在職していて老齢厚生年金が在職停止となっていればその分は増額の対象にならない、繰下げにより年金額が増えても税金や社会保険料が増え、手取り額としては0.7%の率に応じては増えない、年金額が増えることにより医療費の本人負担割合が1割から外れてしまう、そして、必ずしも平均余命を生きる(平均余命で死亡する)とは限らないといったさまざまな点を考慮しなければなりません。

また、前述のとおりそもそも年金を損得勘定で考えることは適切ではありません。少なくとも筆者としては「繰り下げて早く死んだら損ではないか」という考えに与することはできません。繰下げで老後資金により大きな安心を―これが年金繰下げの核心だと思います。もちろん、そのためには繰下げ受給を開始する年齢になるまでの生活資金をどうするか、という問題(これはきわめて大きな問題です)をクリアすることが必要です。

【訂正】 Present1月号の21 ページ「社会保険Q&A」(注2)後ろから2 行目の「増額率」は「減額率」の誤りでした。お詫びして訂正します。

Profile

武田祐介

社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
ファイナンシャル・プランナーの教育研修、教材作成、書籍編集の業務に長く従事し、2008年独立。武田祐介社会保険労務士事務所所長。生命保険各社で年金やFP受験対策の研修、セミナーの講師を務めている。

公式HP https://www.officetakeda.jp/

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