数年前に年金制度の改正があり、従来は妻が死亡した場合、夫には遺族年金が支給されなかったのが、夫にも支給されるようになった、と記憶しています。私は40代の会社員、妻も40代の会社員でいずれも22歳から厚生年金に加入しています。もし、妻に万一のことがあった場合、夫である私は遺族年金を受け取ることができますか。なお、16歳の高校生の子どもが一人います。
遺族年金が受給できます。このケースでは、相談者である夫が年収要件(850万円未満)を満たしていれば、遺族基礎年金が夫に、遺族厚生年金は子に支給されます。
「遺族厚生」は55歳以上限定
質問にある改正は2014年4月1日に施行されました。正確にいうと、夫にも支給されるようになったのは、遺族基礎年金です。すなわち、それまでは、一定の要件を満たす子どもまたは妻にしか支給されなかった遺族基礎年金の対象者が「子どもまたは配偶者」に拡大され、夫にも支給されるようになりました。
遺族厚生年金はもともと夫にも支給されていました。ただし、受給できるのは、妻の死亡時に夫が55歳以上である場合に限られています(ちなみに、夫の死亡により妻が遺族厚生年金の受給対象になる場合は、妻の年齢制限はありません)。
さて、質問のケースについて検討すると、まず遺族基礎年金は夫に支給されます。
遺族基礎年金が支給されるためには亡くなった人に「子」がいることが絶対条件です。
さらに、この「子」には年齢制限があり、18歳に達したあとの最初の年度末(3月31日)までの間にあるか、一定の障害状態にある満20歳未満の子どもに限られます。
したがって、一般的には高校卒業までの子どもがいれば(他の要件を満たしたうえで)遺族基礎年金が支給されます。
ただし、亡くなった人に配偶者がいる場合は、遺族基礎年金は子どもではなく配偶者(質問のケースでは夫)に支給されます。
夫が受給できなくても子どもに
一方、遺族厚生年金は夫が40代で、55歳未満なので、支給要件を満たしません。したがって、夫に遺族厚生年金は支給されませんが、質問のケースでは子どもに支給されます。
遺族基礎年金の支給対象者が子どもと配偶者に限られているのに対し、遺族厚生年金の支給対象者は、①配偶者または子ども、②父母、③孫、④祖父母と幅広くなっています。ただし、①から④の優先順位があり、上位の人に支給されます(①の「配偶者または子ども」が受給できるときは、②から④の人は受給できません)。
①の「配偶者または子ども」は、配偶者と子どもが両方とも受給要件を満たす場合は配偶者が優先で、配偶者に支給されますが、質問のケースでは夫が年齢要件を満たさず受給できないので、子どもに支給されることになります。
したがって、質問のケースは遺族基礎年金が夫に、遺族厚生年金は子どもに支給されます。ただし、遺族基礎年金、遺族厚生年金とも、子どもには前述の年齢制限があり、その要件を満たさなくなると支給されなくなります。子どもが一定の障害状態に該当しないとすれば高校卒業の3月までで支給は終了します。
Profile
武田祐介
社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
ファイナンシャル・プランナーの教育研修、教材作成、書籍編集の業務に長く従事し、2008年独立。武田祐介社会保険労務士事務所所長。生命保険各社で年金やFP受験対策の研修、セミナーの講師を務めている。