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Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2023年1月号掲載

備えよ常に 〜父の教え〜

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文部科学大臣賞

千葉県 印西市立滝野中学校
二学年 下園 たまき(しもぞの たまき)

私の父はとても面倒くさい。

何事も一所懸命やらないとすぐ怒る。
小言をくれる程度で済めばマシな方で、今どきそんな叱り方しちゃダメでしょ!ってときもある。とにかく怖いのだ。
そうかと思えば妙に細かいことを気にしたりする。一八五センチ・一〇〇キロの大男が「電気をこまめに消せ」だの「シャワーを出しっぱなしにするな」とか言うさまは少し滑稽ですらある。

そんな父だが、実は今から七年ほど前に大病を患って入院し二度の手術を受けている。退院後も自宅で長く療養していたそうだ。念のため言っておくが、父は今も健在で今日も元気で、なおかつ大いに面倒くさい。

父が病の床に臥せっていた当時、私は小学校に入学したばかりで父の身の上に何が起きているのかまったく知る由もなかった。そして今中学生になり、この作文の題材にすればいいと父が問わず語りを始めた。

病気が発覚したのは四十歳のとき。放置すればやがて命に関わる病だったが、早期発見できたことと、入院加療と退院後の療養が適切だったことが今でも元気でいられる一番の要因だと言う。

四十歳で病を知ったときには、否応なしに死が迫りくる恐怖と不安に苛まれたという。曰く「遠からずこの世界から自分の存在が消えゆくかも知れない事実に向き合うことの無念」が恐怖の正体だそうだ。

では、不安の方はどうか。

不安の正体はなんとも意外だった。「これから妻や幼い子どもたちに金銭面で苦労させてしまうのではないか」というものだ。
しかしながら、幸運にも恐怖も不安も取り越し苦労で済んだ。先に述べたとおり父は今も健在だし、金銭面で苦しんだり悩んだりすることはなかったそうだ。

父が感じた「不安」を拭い去ったのは生命保険によるところが大きい。父は人生の節目で生命保険に加入したり見直したりしていたそうだ。

初めて社会に出たとき、私が生まれたとき、弟が生まれたとき、住宅を購入したとき……決して几帳面とは言えない父だが、万が一のことがあっても、治療や療養が必要になった場合でも、手もと資金のやりくりと生命保険の活用で、たちまち経済的に行き詰るようなことはなかったのだ。
『そのことを父がきちんと把握していれば、無用の不安を抱かずに済んだのではないか?「結果オーライ」のような気がしなくもないのでいつか尋ねてみよう。』

私が思うに、父は生きるための備えを常に意識している。病気やケガをしたとき最も頼りになるのは手もとの資金なのだと言う。そして次に頼るのが生命保険なのだそうだ。とりわけ「生きるための備え」として医療保険はもちろん、父に万が一のことがあっても私や弟が学業を続けられるよう、つまり子どもの人生が続くよう備えているのだ。

この作文を書いて、私なりに父の教えを感じることができたような気がする。

それは「備えよ常に」

なぜ電気をこまめに消すのか?

―小さなお金も大切にしろ

なぜ何事も一所懸命にやるのか?

―何があろうと悔いなく生きろ

父は誕生日になると「死にまた一歩近づいた」と不謹慎なことを言う。決して好きになれない表現だが、人に与えられた時間には限りがあることを逆説的に表しているようにも思う。よく考えてみると、父なりに精いっぱい生きることの決意表明であると同時に、私や弟に向けての「お前たちは安心してやりたいことをやりなさい」という、分かりにくく面倒くさい励ましなのかも知れない。

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