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Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2023年4月号掲載

基礎年金の額が2通りに

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2023年度の年金額の改定では、67歳以下の人と68歳以上の人では改定率が異なり、年金額に差が生じることになったというニュースを見ました。なぜ、このようなことになったのでしょうか。

毎年度の年金額は、①67歳以下は賃金の変動率に応じて、②68歳以上は物価の変動率に応じて、それぞれ改定されることになっています。したがって、もともと改定の基準が違うので、本来、67歳以下と68歳以上で年金額が異なるのは自然の成り行きといえるのです。ただし、前記①、②は原則的な改定ルールで、例外的な取扱いもあり、これまではたまたま例外規定により改定率が同じになっていたのです。

物価連動か賃金連動か

年金額は前年の物価または賃金の変動率に応じて毎年4月分(支給は6月)から金額が変更されます。年金を新しく受給し始める人(67歳以下 ※注1)の年金額は賃金に連動し、すでに受給している人(68歳以上 ※注1)の年金額は物価に連動するのが原則的な年金額改定のルールです。

すなわち、新たに受け取り始める年金額には、現役世代の賃金の変動を反映させ(賃金が増えることは生活がその分豊かになることを意味します)、その後は、物価スライドにより年金額の実質的価値を維持するという仕組みになっています。別の見方をすると、受給開始後は、現役世代の賃金の伸びは考慮されず、年金額は生活水準の向上に結び付かないといえます。

さて、以上の原則的ルールのほかに、例外規定があります。その一つは、物価上昇率が賃金上昇率を上回る場合は、68歳以上も賃金変動率に連動した改定とする、というものです。原則ルールによれば68歳以上は物価連動なのですが、 より低い上昇率の賃金連動になるわけです。現役世代の賃金が増えていないのだから、年金受給者も物価上昇率より低い改定率で我慢してね、といったところでしょうか。

ところで、物価上昇率が賃金上昇率(※注2)を上回るというのはどういう状況でしょうか。たとえば物価は5%上がったのに、賃金は3%しか上がっていないという状況です。これは物価の伸びに賃金の伸びが追い付いていない状況ですから、実質的に暮らし向きが苦しくなっていることになります。こうした事態はできれば避けたい異常な状態であり、年金額改定の原則ルールも、賃金のほうが物価より上がるという前提に立って作られているのです。

ただ現実には、物価の伸びが賃金の伸びを上回る状況(物価の下落幅より賃金の下落幅が大きいという状況なども含む)が、このところずっと続いてきました。したがって、基礎年金額は、今の改定の基本的な仕組みが導入された2004年度以降、一度も原則ルールが適用されることなく、例外規定により67歳以下も68歳以上も同じ改定率により毎年度の年金額が決められてきたのです。

ところが、2023年度の改定では、その基礎となる数値は、物価変動率2.5%、賃金変動率2.8%で、ようやく正常な状態になりました。このため、67歳以下は賃金スライド、68歳以上は物価スライドという原則ルールが適用され、老齢基礎年金の満額などが2通りになったのです。

(※注1)正確には「67歳以下」は「67歳に達する年度まで」、「68歳以上」は「68歳到達年度以後」である。たとえば、2023年5月20日に65歳に達した人は、2025年度の改定までは賃金スライド、2026年度の改定から物価スライドになる。賃金スライドは単年の極端な賃金変動の影響を排除するため、3年度の平均値によることとされていて、そのため65歳から3年度間は新規受給の扱いとされている。

(※注2)賃金変動率は、正確には名目手取り賃金変動率であり、物価変動率が反映されている。

Profile

武田祐介

社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
ファイナンシャル・プランナーの教育研修、教材作成、書籍編集の業務に長く従事し、2008年独立。武田祐介社会保険労務士事務所所長。生命保険各社で年金やFP受験対策の研修、セミナーの講師を務めている。

公式HP https://www.officetakeda.jp/

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