介護保険制度とその周辺にある法制度
介護保険からの給付を受けている人の中には、他の社会保障制度の適用条件を充たしている場合もあります。必要以上の給付が重複して行われることはありませんが、介護保険給付と「重なる部分」の給付がどうなるのかを見てみましょう。
●公的医療保険との関係
原則として、介護保険と医療保険の給付内容が「重なる部分」に関しては、介護保険からの給付が優先されます。例えば、在宅における訪問リハビリテーション・通所リハビリテーションや、居宅療養管理指導における歯科医師による訪問歯科衛生指導などで、要介護認定を受けた人への給付は介護保険からの給付となります。 ただし、指定介護療養型医療施設(介護保険施設の1つ)の医療保険適用部分に入院した患者には医療保険が適用されます。また当該施設において介護保険の指定を受けている行為については介護保険からの給付が行われますが、透析や人工呼吸器の装着などのように複雑な行為、急性期病棟に移った場合に受ける行為については医療保険が適用されます。しかし、後者の場合、歯の治療や特別の医療措置が必要な入所者に対しては、その提供される医療の部分だけ公的医療保険が適用されます。
●生活保護法との関係
第1号被保険者(65歳以上)が要介護状態等になった場合、たとえ生活困窮の状態であっても生活保護法上「保護の補足性の原理」(他の法律による給付が得られる場合は生活保護法より他法を優先する)により介護保険の給付が優先されます。この場合の要介護者等がサービス利用時に自己負担分が支払えなくなったなど場合には、適切なサービス確保のために生活保護法による介護扶助の申請が必要となります。生活保護の申請が受理され保護が開始されれば、結果的にサービス利用時の自己負担分が介護扶助として生活保護制度から現物給付された形となり、最終的には介護サービスの自己負担分の支払をすることなくサービスが利用できることになります。
●障害福祉サービスとの関係
障害者総合支援法の障害福祉サービス(介護給付としてホームヘルプや短期入所サービス等がある)の利用者が介護保険サービスの対象となった場合、両制度で共通するサービスを利用する際は介護保険のサービスを優先して利用することとなります。
●労災保険法との関係
65歳に達している介護保険第1号被保険者が、現役労働者である状態で介護が必要になった場合は、要介護状態になった原因を問われることなく介護保険の給付が受けられます。実際は、第1号被保険者が業務災害・通勤災害により介護が必要になった場合、労災保険からの給付項目と介護保険からの給付項目が重なる時(訪問介護利用時など)には、労災保険からの給付(介護補償給付)が優先されます。
第2号被保険者の場合、脳血管疾患は特定疾病に該当しているので介護保険上のサービス受給が可能ですが、過労が原因で脳血管疾患を発症した場合に労災認定されれば、給付が多い労災法上の介護補償給付を受給することができます。
なお、介護補償給付の上限を超えてサービスを利用する場合、その利用額が介護保険給付の範囲内であるならば、差額分については介護保険から給付がなされます。
2022.04.01 (保坂)