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Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2021年8月号掲載

『かき氷』

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普段何気なく食べている定番料理の歴史を探る「ごちそうの歴史」。前回紐解いた「とんかつ」の歴史に続いて今回探るのは「かき氷」。暑い日につい食べたくなるひんやり冷たい日本の夏の風物詩は、かつては高貴な人だけが食べられる貴重品でした。

平安貴族も愛した夏の風物詩

シャリシャリと氷を削る心地よい音と共に築かれる純白の雪山。ひとさじ口に含めばすっと溶けて、心地よい涼しさと魅惑の甘みが広がる「かき氷」。

氷を食べるという文化は古くから世界中に存在しており、かき氷ならではの「削った氷にシロップをかけて食べる」という食べ方の発祥は定かではありません。しかし、平安時代の女流歌人・清少納言は随筆の「枕草子」で「あてなるもの(上品で雅なもの)」として「削り氷にあまづら入れて新しき金鋺(かなまり)に入れたる」を挙げています。この文章を現代語に訳すと「新品の金属のお椀に氷を削ってあまづらをかけたもの」。あまづらとはブドウ科のツル植物の樹液を煮詰めて作った糖液のことで、少なくとも平安時代には甘いシロップをかけたかき氷を食べる文化があったことがわかります。

ただし、製氷技術がなく冷蔵技術も未熟な時代において氷は貴重な食材でした。良質な氷が安価で手に入るようになる明治時代まで、かき氷は限られた上流階級しか口にすることができない高級デザートだったのです。

負債を抱えても信念を貫いた国産天然氷量産の夢

19世紀初頭、アメリカ・ニューイングランド地方では切り出した天然氷を世界各国へ輸出していました。この氷は積み出し地の名前をとって「ボストン氷」と呼ばれており、1858年に日米修好通商条約が結ばれると日本もボストン氷の輸入を開始。当初は居留外国人が飲料品の冷蔵や食肉の保存や医療のために用いていましたが、やがて日本人の間でも需要が広がっていきました。

しかし、輸入当初はまだ欧州とアジアを連結するスエズ運河が開通しておらず、日本に到達するまでにはアフリカ大陸南端の喜望峰を回るルートで6ヵ月以上かかりました。当然、積み荷の氷も輸送中に目減りし、日本に到着したボストン氷の価格はみかん箱程度の大きさで3〜5両(現代の価値にして30万〜60万円)もする高級品だったそうです。

日本に牛乳や牛肉食を広めたキーパーソンとしても知られる実業家・中川嘉兵衛は、こうした氷の有用性や需要に着目し、国産の天然氷の量産に向けて1861年から事業を開始。手始めに富士山麓で採氷を試みるも、輸送に難があり氷は溶けてしまいました。その後、諏訪湖、日光、釜石、秩父など各地で再挑戦するも、品質や輸送の問題によりすべて失敗。中川は度重なる失敗で多額の損失を抱えましたがめげずに氷事業を続け、最後に函館へとたどり着きました。

■ かき氷の売り出しを告げる「氷旗」は函館氷の広告デザインが原型といわれる

そして1869年、中川は五稜郭の外濠で採氷した良質な天然氷を横浜へ輸送することに成功。同年、函館からの氷をもとに、横浜・馬車道で日本初のかき氷店が開業されました。初成功から事業を拡大した中川の氷は「函館氷」と命名され、ボストン氷よりも良質かつ安価だったことから日本の氷市場を席巻。函館氷の成功をきっかけに、天然氷の採氷・販売業が全国的に広がりました。

さらに1880年代に入ると製氷技術の発達により人工氷の生産が拡大し、氷を回転させて刃で削る「氷削機」も発明されました。氷が安く手に入る身近な存在になり、氷削機が一般に普及したことで、かき氷は1900年頃までに庶民の味として定着していったのです。

大人から子どもまで楽しめる

■ 鮮やかな色合いが夏の日差しに似合う昔ながらのかき氷

かき氷は氷の種類、温度、削り方によって様々な口当たりを演出できますが、味の決め手はやはりシロップです。

戦前はかき氷の定番といえば砂糖をふりかけた「雪」、砂糖蜜をかけた「みぞれ」、小豆あんをかけた「金時」の3種類でしたが、戦後は人々の嗜好の変化もあって様々なフレーバーのシロップが誕生。また、練乳仕立てのシロップをかけてフルーツや小豆をトッピングした鹿児島市発祥の「白くま」や、いちごシロップをかけたあとに酢醤油をかけて仕上げる山形県山辺町の「酢だまり氷」など、日本各地の食文化を反映したご当地ならではのかき氷も発展していきました。

さらに近年は氷の種類、削り方、シロップを吟味したかき氷専門店が数多くオープンし、パティシエが腕を振るう本格かき氷を提供するホテルも増加。かき氷は、誰もが楽しめる安価な屋台グルメであると同時に、大人が楽しめるデザートとしての地位も確立したのです。

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