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Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2021年12月号掲載

『蕎麦』

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私たちの生活に根差した国民食や定番料理の歴史を探る「ごちそうの歴史」。11月号でご紹介した「お好み焼き」に続く今回のテーマは原料の名前であり料理名でもある「蕎麦」です。じつは蕎麦と日本人には、米よりも古い付き合いがありました。

飢えの時代を救った作物

噛むたびに広がる繊細な香りと滋味豊かな味わい、そして独特の食感を伴った心地よい喉越しが魅力の蕎麦。原料であるソバは刺身のツマとして用いられる「タデ」の仲間の植物で、原産地は中国南西部の高原地帯。日本や中国などでは麺、ロシアでは粥、ヨーロッパ諸国ではパスタやクレープなど、世界各国でさまざまな調理法で食されています。

■ 小ぶりな花弁が可愛らしいソバの花。
ミツバチが蜜を採取する花としても利用される。

日本に稲が伝来したのは今から約3000年前の縄文時代末期から弥生時代にかけてと考えられていますが、高知県・佐川町では約9300年前の地層からソバの花粉が発見されています。日本では稲作が始まる遥か以前よりソバの栽培が行われていたのです。

ソバが初めて日本の文献に登場するのは、平安時代初期に編纂された歴史書「続日本紀」です。この書物には、722年に奈良時代の女帝・元正天皇が、干ばつに伴う飢饉に備えてソバの栽培を奨励したことが記されています。ソバは栄養のない痩せた土地や寒冷地でもすくすくと育つうえ、50〜70日間の短期間で収穫できることから、救荒作物として重要視されていたのです。

非常時に向けてソバの栽培を奨励したということは、言い換えると平時はソバを栽培している人が少なかったという意味でもあります。現代では製粉機を用いてソバの実を包む硬い殻を剥いて粉状に加工していますが、奈良時代には当然そのような機械は存在しません。ソバの硬い殻を剥くのはとても手間がかかる作業だったため、当時は日常の食糧としてはあまり利用されなかったのです。

せっかちな江戸っ子の間で大流行

製粉に欠かせない石臼は奈良時代に中国から伝来し、約400年が経過した鎌倉時代に広く普及。江戸時代には一般庶民にも定着しました。石臼が普及する前は実のまま煮て粥のように調理するのが一般的でしたが、鎌倉時代以降はソバを粉にして食べる文化が生まれました。

現代において蕎麦といえば基本的には麺状に加工されたものを指しますが、蕎麦とは折りたたんだ生地を包丁で切って麺状に加工した「蕎麦切り」という料理の略称です。蕎麦切りが誕生したのは16世紀後半の安土桃山時代と考えられていますが、蕎麦切りが誕生する以前は蕎麦粉を熱湯でこねて餅状にした「蕎麦がき」が主な調理方法でした。

注文するとすぐに出てきてサッと食べられる蕎麦切りは、威勢のよさを美徳とした江戸っ子の気質とマッチして大流行。道端で蕎麦切りを提供する辻売りに始まり、屋台や店などさまざまな形態の蕎麦屋が江戸の街に誕生しました。

江戸時代の初期はまだ醬油が関東に普及していなかったため、つゆは味噌仕立ての味付けでした。また、麺を打つ技術も充分に確立されておらず茹でるとちぎれやすかったため、せいろに盛って蒸して調理されていたそうです。

醤油が一般化した江戸時代中期ごろになると製麺技術も発達し、現代と同じような形式の蕎麦切りを提供する店が増加しました。江戸時代末期には江戸の街中に3700軒以上の蕎麦屋があったといわれ、その味を求めて日々行列ができる蕎麦御三家「更科」「藪」「砂場」が誕生したのもこの頃のこと。また、蕎麦屋が店じまいする夜から明け方にかけては「夜鷹そば」の屋台が現れており、江戸の街はいつでもどこでも蕎麦切りを堪能できる"蕎麦の街"になっていました。

個性豊かな郷土蕎麦

■ つなぎに海藻の布海苔を使用した新潟の郷土蕎麦「へぎそば」。
出典: 農林水産省Web サイト「うちの郷土料理」

現代社会では蕎麦屋台を目にする機会はありませんが、街中や駅の構内に展開する立ち食い店、腰を据えて落ち着ける専門店、和食をテーマにしたファミリーレストランなど、江戸時代よりもバラエティ豊かな蕎麦店が軒を連ねています。また、岩手県の「わんこそば」、新潟県の「へぎそば」、長野県の「戸隠そば」、京都の「茶そば」、島根県の「出雲そば」など、地域の特色を生かした蕎麦切りが日本各地に存在しています。

遥か太古の伝来と比較すれば、わずか400年前に誕生したばかりにも関わらず、しっかりと日本全国に定着した蕎麦切り文化。飢えをしのぐための食料から並んでも食べたい美食への雄大な進歩の歴史に思いを馳せつつ、豊かな風味を堪能してみてはいかがでしょうか。

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