福岡県 上智福岡中学校
二学年 溝口 奏真(みぞぐち そうま)
ぼくの父はガンだ。
「トランプのポーカーなら、ロイヤルストレートフラッシュを最初の手札で配られるよりも難しいんだ」
と父は冗談を言う。
珍しいガンを希少ガンと呼ぶ。
オリンピックに出場した水泳の池江璃花子選手は、急性リンパ性白血病の難病を乗り越えて出場、などとニュースで報道されている。
実は難病にも定義があり、十万人に六人の発生率で、どんな病気が難病に該当するか、細かく決まっている。
そうなると該当しない病気も出てくる。
父は百万人に一人の確率でなる大変珍しいガンで、難病の定義にあてはまらない。
ポーカーについて調べたら、本当に父の言う通りで、ロイヤルストレートフラッシュの方が1.5倍、父のガンより出やすいのだ。
カジノで大儲けできるレベルだね、と笑いながら、心の底ではとても驚いた。
そんな誰も聞いたことのない、普通の医者でも知らないほど珍しい病気には、難病という名前はつけられていないのだ。
こうした事情もあり、家ではよくお金の話をする。
国には健康保険という制度があり、加入者本人は医療費の三割を負担すればいい、安心できるいい制度と思う。
しかしすべての病気に三割負担が当てはまるわけではない。
難病程度なら保険が適用されるが、父の場合は病気がまれ過ぎて、保険の対象にはならないのだ。
そうなるとすべてが自己負担になる。そして抗ガン剤はとても高いと聞いた。
なので、家ではお金の話をよくする。
国民全員が対象の健康保険の他に、個人が自分で加入する保険があり、生命保険がその例だ。
加入した本人が亡くなってしまった時に支払われる保険で、父はそれについてぼくに話した。
父が亡くなったら、保険金が支払われる、しかし保険金だけでは、ぼくや妹や母がこれから将来にわたっては生活できない、と。
ただ、ぼくの学費を何とか出せる程度にはなると言った。
もし父に何かがあったら、母も働かなければいけない。
仕事が見つかるかもわからない。
ぼくは、自分が母に代わって家や妹の面倒を見て、塾に行きたいのを我慢しなければいけないと覚悟した。
まず今できることとして、家事を手伝い、食べたいご飯を自分で作れるようになった。
妹もそうした。
そして将来は奨学金をもらえるくらい、がんばって成績を上げたい。
自分のことを自分でやる責任を持ちたいと思う。
生きていくためにはお金が必要なのが現実だ。
残された家族は、お金のことがとても不安だ。
生命保険金があることで、お金が無くなって家を追い出される、食べるものに困るような時は、すぐには来ない。
ぼくが食べたいお菓子を買えなかったり、お金がなくて学校で恥ずかしい思いをしなくてすむ状態が何年かある。
こうして、当面の間の生活が安定することは、家族にとってとても安心だ。
生命保険という制度があるのは、それが身近になってみて、本当に助かるとわかる。
父から「早く自立するように」とも言われた。
自分の力でお金を稼いで生活していけという意味だ。
数年の間を保険金でやりくりできたら、義務教育が終わって高校生くらいから自分の力で生きていくという意識をしないといけないと思う。
そしてぼくの祖父もガンになった。
二週間前にわかり、すぐ入院した。
このように、ぼくは人生では突然どんなことがあるかわからない経験を身近にしているので、突然家族に起きる不幸なことに備えることは大事だと理解している。
そして同じ学年のクラスの友達よりも、少しは自分が成長できたと思う。
辛くても、前を向いて生きるしかない。
その生きる最中のいざという時に、頼りにできる存在が保険なのだ。