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Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2024年9月号掲載

遺産分割の対象となる相続財産を知っておこう

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生命保険は相続対策に役立ちます。
今号では、単純承認を前提とした相続手続きの流れについて解説します。

***

みなさんこんにちは、FP塾講師の狩野です。前回(8月号)の記事では相続発生後3か月間(熟慮期間)で検討する単純承認や相続放棄などについて取り上げました。

ただ、多くのケースでは単純承認を選択することになると思いますので、今回は単純承認することを前提とした上で相続手続きの流れを説明していきます。

相続手続きの大まかな流れとしては、

  1. ❶ 法定相続人を確定させる
  2. ❷ 相続財産を確定させる
  3. ❸ (遺言がなければ)遺産分割協議により分け方を話し合い遺産分割協議書に落とし込む
  4. ❹ 実際に金融機関等で相続手続きをする
  5. ❺ 相続税がかかる場合は相続税を納税する

となります。今月号では主にについて取り上げていきます。

法定相続人を確定させよう

遺産分割協議で話し合うにしても、金融機関等で相続手続きをするにしても、「相続人は誰か?」を確定させる作業は非常に重要です。一般的には戸籍謄本を取得することで相続人を確定させます。

本誌2024年3月号でも少し触れましたが、「被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本」および「相続人全員の現在の戸籍謄本」が必要となります。お客様の中では例えば「相続人は配偶者と実子だけだ」とわかっていても、それを金融機関側に証明するには戸籍謄本等が必要となります。

そして、「お客様の中ではわかっていても」と書きましたが、戸籍謄本を取得することでそれまで知らなかった相続人がわかることもありますので注意が必要です。

例えば、散見されるケースでは被相続人により認知された子(非嫡出子)がいるケース。家族に内緒で認知だけはしていた場合は、戸籍謄本取得時に初めて知ることがあります。

また、実は被相続人は再婚で、前の配偶者との間に子供がいた、子供たちは実子として血のつながった兄弟姉妹だと思っていたのに実は養子で血のつながりがなかったなど、「被相続人が生まれてから」の戸籍謄本を取得することで、ご遺族の知らない被相続人の過去がわかることがあります。

また、相続人全員の現在の戸籍謄本を取得することで、ずっと音信不通だった子がいたけど健在だった、逆にすでに亡くなっていたということもわかります。こうして相続人の確定作業を行います。

なお、戸籍謄本の取得は「被相続人が生まれてから亡くなるまで」と書きましたが、被相続人に子供がいなかった場合はもっと大変で、相続人第二順位者の両親がすでに亡くなっていた場合、相続人第三順位の兄弟姉妹が把握している人以外にいないかどうかを調べるために「被相続人の親」が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本も必要になってくるので注意しましょう。

一般的な相続財産

相続人の確定作業に続き(多くの場合は同時並行ですが)、次は相続財産の確定です。一般的な相続財産の内容としては〔表1〕をご覧ください。

〔表1〕主な相続財産の例

現預金 相続発生時点での現預金残高で評価。被相続人の生前に引き出した預貯金があり、
使い切っていないもの(もしくは名義預金扱いのもの)は相続財産に持ち戻す。
不動産 一般的には持ち家の土地と家屋が対象。
その他、別荘・田畑や山林なども保有していれば相続財産となる。
配偶者
居住権
2020年4月1日以降に発生する相続について適用が可能となった。
有価証券 証券会社等からの郵便物(取引残高報告書等)にて確認。
必要に応じて証券保管振替機構(通称ほふり)に問い合わせを行う。
金・地金
美術品
金・地金等は家の金庫や銀行等の貸金庫に現物があることがある。
美術品・骨董品に関しては価値があるものについては精通者意見価格等を参考にする。
家財一式 価値がある宝飾品などを除き、いわゆる形見分けの対象。
(遺産分割上も逐一目録を書くことはない)税法上も1個または1組の価格が5万円以下
のものについては、一括して評価が可能。(財産評価基本通達128)
贈与財産 民法上は(特別受益になる場合を除き)遺産分割の対象とはならない。
相続税計算上、一定の贈与財産は相続財産に持ち戻して計算する。
死亡
保険金
受取人固有の財産として、民法上は相続財産ではないため、遺産分割協議の対象外。
ただし、相続税計算上はみなし相続財産として非課税枠(*)を超えた分が加算される。

(*)死亡保険金の非課税枠:500万円×法定相続人の数

負債 相続発生時点での負債残高。
なお、連帯保証債務については、債務が実現していないので相続財産額としては含まない。
◎スマホでは表を横スクロールできます。

今回はこの中から主要なものだけ取り上げます。まずは現預金です。一般的には相続発生時の残高が相続財産となります。通帳の記帳で確認するのが一番簡単ですが、通帳が見つからない場合などは金融機関で残高証明書等を申請するとよいでしょう。

注意が必要なのが、名義預金やタンス預金です。名義預金とは自分の子や孫名義で通帳を作り、そこにお金を贈与のつもりで入金したものの通帳・印鑑等の管理を自分で行っている預金のことです。いくら被相続人本人が生前に「これは子や孫のものだ」と言っていても、将来的に相続税の税務調査が入った際には、実質的に被相続人本人の財産として相続財産とみなされる可能性が高いので、名義預金と思われるものは相続財産に含めた方が無難でしょう。

また、相続財産から抜け落ちやすいのがタンス預金です。これは元々現金のまま保有していたものだけでなく、被相続人が亡くなる前に相続人等が「色々物入りになりそうだから」とキャッシュカード等で現金を引き出し、ずっと保管し続けていたケースも含みます。相続人の誰かが引き出しておいてそのままにしておいた場合、相続発生後に「預金残高がこんなに少ないわけがない」と他の相続人とトラブルになることもなりますし、相続税の税務調査では通帳の出金履歴を確認した上で「この多額の出金はなぜでしょう」と詰められる可能性もありますので素直に開示した方がよいと考えます。


次に不動産です。不動産は大きく分けて家屋と土地の2つに分かれます。被相続人が賃貸物件にお住まいだった方であれば気にする必要はありませんが、持ち家にお住まいだった方は毎年5~6月頃に各家庭に届く固定資産税納税通知書に付随している固定資産税課税明細書を確認してください。

持ち家が1つだけならわかりやすいですが、実はバブル時代に買った別荘があった、原野商法に引っかかってよくわからない地域の不動産を持っていた、先祖から引き継いでいた田畑が思った以上に多かったなど、調べてみて初めてわかることも意外とあります。不動産の評価についてはここでは割愛いたしますが、相続税を計算する上での一般的な不動産の評価はJAIFA学習帖よりご確認ください。

生前贈与財産はもうすでに渡してしまっている財産なので、基本的には相続財産ではありませんが、多額な贈与財産が「特別受益」として認められると遺産分割協議の対象となってきます。ただこの特別受益という考え方は非常に難しい話なので今後の連載で改めて解説いたします。なお、相続税の計算上は一定の贈与財産は相続財産に持ち戻して計算します。税法上の生前贈与についても今後の連載で解説いたします。

相続財産はプラスの財産だけではありません。マイナスの財産つまり借金も立派な相続財産です。住宅ローンを組まれている方は、団体信用生命保険(以下、団信)への加入を確認してください。保険事故が起これば団信からの保障で住宅ローンは相殺されますのでご安心ください。それ以外のいわゆる消費者金融などからの借入に関しては、故人に何かしらの郵便物等が届いていないか確認してください。場合によっては各種信用情報機関へ照会をする必要があります。

なお、〔表1〕に記載がない仏壇やお墓などの祭祀財産は遺産分割とは別に先祖のお墓を守っていく人(祭祀主宰者)が承継するため、そもそも相続財産とはなりません。また、遺族年金も法律で受け取れる人が決まっているため相続財産とはなりません(相続財産ではないため相続放棄をしても受け取ることが可能です)。

死亡保険金は原則、遺産分割協議の対象外

死亡保険金はどうでしょうか。「みなし相続財産というくらいだから相続財産でしょ」と勘違いされているお客様がいらっしゃいますが、死亡保険金は「受取人固有の財産」として民法上は相続財産ではないため、原則的には遺産分割協議の対象外財産となります。しかし、相続税を計算する際には、便宜上相続財産と「みなして」非課税枠を超える分は相続税計算に含まれることになります。民法と税法での取り扱いの違いは押さえておきましょう。

ただし、例えば次のような保険契約は遺産分割協議の対象となります。

契約者 被相続人
被保険者
死亡保険金受取人 被相続人

このような契約者と被保険者が違う契約、つまり死亡事故が発生していない保険契約は受取人固有の財産としての死亡保険金も発生していないため、生命保険の権利として遺産分割協議の対象となります(一般的な相続税評価額は解約返戻金相当額となります)。ちなみに死亡保険金が発生していないので、非課税枠の適用もありません。〔表2〕

〔表2〕契約形態で変わる相続時の生命保険契約の取り扱い

契約形態例 契約者:被相続人
被保険者:被相続人
受取人:相続人
契約者:被相続人
被保険者:相続人(子など)
受取人:被相続人など
民法上の
取り扱い
死亡保険金は
受取人固有の財産として
相続財産には含まれない
生命保険の権利として
相続財産に含まれる
遺産分割協議 遺産分割協議の対象外 遺産分割協議の対象
相続税法上の
取り扱い
「みなし相続財産」として
相続税の課税対象
一般的には解約返戻金相当額が
相続財産の評価額として
相続税の課税対象
死亡保険金の
非課税枠の適用
あり なし
◎スマホでは表を横スクロールできます。

このように死亡保険金は、遺産分割協議など経ずにすぐに受け取ることが可能です。

この遺産分割協議の対象とならない死亡保険金をうまく活用することで相続における諸問題を解決できる可能性があります。それはまた次回詳しく解説いたします。

プロフィール

狩野 新平(かのう しんぺい)株式会社シャフト

CFP・1級FP技能士
信託銀行での資産運用相談・遺言コンサルティングや、外資系保険会社での法人・相続研修および法人・相続の案件相談業務を経て、現在FP塾の専任講師。主に初学者・中堅層向けのセミナーを担当。現在「相続スタンダードセミナー」を毎月開催中。

FP塾HP▶ https://www.fp-school.com/

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