「貯め上手」は「使い上手」、使わなかったお金は将来の収入といえます。
お金を活かす使い方を心掛けましょう
支出削減は、お金の使い方の癖に左右される変動費こそ注目
家計を見直すベクトルには、「支出を減らす」方向と「収入を増やす」方向との2つがあります。多くの方が気になり、また現実的にも実行しやすいのは前者の支出面でしょう。
その支出には、固定費的性格と変動的性格とがあります。このうち注目したいのは、「固定費」よりもむしろ「変動費」。何故なら、仮に固定費を削減できても、変動費を上手く管理できない人は、浮いた分だけ無意識に使ってしまいがちだからです。消費性向(お金の使い方の癖)が変わらなければ家計は変われないもの。そして、たとえ将来的に収入が増えたとしても、「思うように貯まらない」という状態になりかねないものなのです。
概ね固定費に分類できる支出
- 住居費、公共料金、通信費
- 生命保険料、損害保険料
- 日常的生活費(食費、雑費等)等
概ね変動費に分類できる支出
- 外食費(交際費等を含む)
- レジャー費、旅行費、
耐久財購入費 - ファッション関係費
(理美容費を含む) - 自己投資(教養費や書籍等、趣味)等
活きたお金の使い方ができる「使い上手」を目指す
「〇〇費」という支出は、「単価×回数」で構成されます。例えば、1カ月の外食費は1回当たりの食事単価と1カ月間に食事に行く回数で決まります。とかく意識していなければ何気なく安い出費を重ねてしまいがちです。安かろう悪かろうではありませんが、そのような出費は満足感が得られにくいのも確かでしょう。
お金の使い上手とは、活きたお金の使い方ができること。活きたお金の使い方とは満足感が高く充実できる時間を過ごせたり、ずっと大切に使える良質のモノを得られたりすることです。そのためには、「回数」を減らしてでも、「単価(質・グレード)」は落とさず、むしろ単価を上げるという一点豪華主義的な使い方を心掛けることをお勧めします。
これにより、その「〇〇費」は単なる「出費」でなくなります。もちろん、いつ使ったのか記憶にすら残っておらず、雑に使い捨てる消耗品でしかない「浪費」でなく、自分たちへの「投資(自己投資・ご褒美)」にすらなり得ます。すぐになくしてしまうビニール傘や安価なボールペンを何度も買うより、充分に吟味して選んだことがきちんと記憶として残る、絶対なくしたくない、〝投資とも思える〟良質で高価な一品を所有する、心から豊かさを感じる時間を過ごす —— 。
このように、往々にして、「浪費は少なく投資は多く」といった使い方を意識することで、結果として全体的な支出も抑えられるものなのです。
「貯める」は「使う」の裏返し、そして将来の収入にもなり得る
使うと貯めるとは表と裏の関係です。外食に行く回数を毎週から隔週に減らす、その代わりに1回当たりの単価を上げる。これは、2週間後のためにお金を使わず貯める行為に他ならず、貯蓄といえます。
さらにその貯めたお金とは、2週間後に外食に行く際の収入と考えることもできます。1年間の被服費も、旅行費も、趣味に費やすお金も、さらには老後生活資金すら同様です。意識次第で、浪費にも投資にも大きくブレやすい変動費は、貯蓄にも、そしてある意味では「収入を増やす」見直し策にもなり得るのです。
豊かな人生とは、究極には何かをしようとしたり買おうとしたりする際に、選べるオプション(選択肢)の多い人生といえます。無造作にいつでも使えるお金が豊富にあることより、むしろ限られた中でも、意識して活きたお金の使い方をしているほうが幸せを感じることも多いのではないでしょうか。
そしてこのような癖を身につけることで、「将来は偶然の産物」でなく「将来から“いま”を考えた必然の結果」となり、選択肢の豊富な人生となっていくと考えることもできます。
PROFILE
井上 信一(いのうえ しんいち)
価値生活研究室 代表
CFP®、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
FPとしては、個人向けFP相談、法人・個人向けのセミナー・講義、労組・福祉会等の発行する福利厚生冊子執筆のほか、企業のリスクマネジメント・福利厚生設計支援、各種コラム執筆や書籍監修にも多数従事。
また、進展する超高齢社会を前に、「介護の不安を軽くするための暮らしと住まい」を支援すべく数多くの高齢者施設の見学会や情報発信等の企画も開催。成年後見人として、地域社会への貢献活動もおこなっている。