デザイン思考、デザイン経営という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
デザインはデザイナーに任せておけばいい……。
そんな声も聞こえてきそうですが、
いまや営業職をはじめとするすべてのビジネスパーソンが
持つべき思考のアプローチ方法といえるものです。
デザイン思考とは、なんのこと?
デザイン思考とは、「ビジネス上のさまざまな課題を、デザインの思考法を利用して、ユーザーの視点から、問題点を解決するための考え方」のことをいいます。
デザインは、狭い意味で捉えれば、製品やパッケージの形や色などを考えること、製品の販売促進のためのパンフレットやポスターを考えることといえます。一方で、広い意味で捉えれば、商品を作り出すシステムや機能を考えること、さらには企業の理念をイメージ化し、ブランディングすることともいえるのです。
近年では、デザインが活用される領域は広がりつつあり、商品開発や販売促進にとどまらず、企業ブランドの価値創出など、幅広くデザイナーの考え方を活用し、イノベーション(技術革新)を起こす動きが活発化しています。
なぜ、いまデザイン思考が求められる?
デザイン思考という考え方を社会全体に広めたのは、アメリカの「IDEO(アイディオ)」という、デザインコンサルティング会社です。Apple社の初期のマウスをデザインしたことでも知られています。
日本では2018年5月、経済産業省・特許庁が『「デザイン経営」宣言』という報告書を発表しました。
この報告書では、デザイン思考を取り入れることにより、企業がグローバル社会における競争力を身につけるための、課題や実践方法がまとめられています。
報告書発表の背景にあるのは、情報技術の発展により、先進国だけではなく、多くの国で安価で便利な製品が作られるようになったことが挙げられます。
かつて、モノのない時代であれば、良い製品を作れば黙っていても売れました。
しかし、モノが十分に行き渡ったいま、作り手側の視点だけでは物は売れず、ユーザーがどういうことに困っているのか、どのような製品を望んでいるのかなど、ユーザーの視点で考えることが重要な時代となりました。
報告書ではデザインについて、「人々が気づかないニーズを掘り起こし、事業にしていく営みでもある」と再定義しています。そして、こうしたデザイン思考を活用した経営手段を、「デザイン経営」とも呼んでいます。
デザイン思考実践のための5段階
デザイン思考の“キモ”となるのは、「機能だけではなく、感覚的な価値を与える」「本質を捉えて、情報をわかりやすくする」などの、デザイナー的な考え方です。
これらを意識しながら実践していくことにより、たとえば営業の現場であれば、より顧客に寄り添った営業を実現することができ、顧客の問題解決へと繋げることができるでしょう。
それでは、デザイン思考を実践するための5段階を見ていきましょう。ここで大切なことは、「ユーザーの真の悩みは何か」などといった、常にユーザー視点でプロセスを進めること、5つのステップを短期間で繰り返すことです。
<デザイン思考の5段階>
1. 共感
ユーザーの実態や行動、心理状態などを知ることから始めます。観察のためのフィールドワークやインタビューを行い、ユーザーが感じている問題点や課題を見つけだすことが目的です。さらに、実際に体験することで、ユーザーへの理解や共感を深めます。
インタビューを行う際には、ユーザーが当たり前のように感じていたことに対して疑問を投げかけ、その理由の本質に迫ることも大切です。
2. 問題定義
観察やインタビューなどの結果、ユーザーの「困りごと」が明らかになります。問題の本質を見つけ、その中から具体的なニーズをあぶり出し、解消すべき問題を明確にする段階です。
ユーザーが考えていることの背後に潜む、これまでの常識を疑ってみることや、思い込みを排除することも大切です。
3. アイディア創出
問題を解決するための、具体的なアイディアを多く出して、スケッチを書いたり、テキスト化して連想ゲームのように進めます。ここでは質より量を優先し、どんなアイディアに対してもマイナスなことは言わず、否定しないようにします。
出されたアイディアを評価して修正、再度評価を繰り返し、ブラッシュアップしていきます。大切なのは決めつけないこと、常識にとらわれない発想を意識することです。
4. プロトタイピング
人は、目の前にある情報を判断材料とする傾向にあります。口頭では伝わらないことでも、実際にプロトタイプ(試作品)を作成すれば説得力が増します。発想したものを素早く形にするため、なるべく時間とコストをかけずに作るのがポイントです。
完成品ではなく、必要最低限の機能があればよく、紙や発泡スチロールなどで作ります。顧客への提案であれば、この段階で簡単な資料や提案書を作成していきましょう。
アイディアが視覚化されることで、共感や問題定義が見直され、あらたなアイディアが生まれることなども考えられます。
5. 検証
試作品や提案書などを、ユーザーに実際に見てもらったり、使ってもらい、使いやすさや機能など、当初考えていたアイディアが達成できているかを検証します。そして、ユーザーからのフィードバックなどをもとに、あらためてアイディアの検証や改善を繰り返します。
想定した機能が実現できていない場合には、あらためてアイディアを見直し、試作品や提案書などを作り直すことも必要です。
このように5つのプロセスを何度も繰り返し、試行錯誤を続けながら最終的な完成形へとつなげていくことが、デザイン思考のプロセスです。
デザイン思考を取り入れると何が変わる?
ビジネスパーソンにとって、今後の働き方を考えるとき、デザイン思考は欠かせないアプローチといえます。デザイン思考を取り入れる最大の効果は、イノベーションを呼び起こすこと。一人ひとりのニーズから課題を見つけ、本質を見極めることで、新しい発想が生まれるのです。
とはいえ、何か新しいことを始めようとしたときに、「アイディアや提案書を出したはいいけど、失敗するかもしれないし……」と、ついネガティブな思考に陥ることもあるでしょう。
しかし、デザイン思考では、新たな課題を見つけるためにも、失敗することも大切なプロセスです。成功するかしないかはいったん置いて、「まずはやってみる」という思考を習慣づけることで、失敗というネガティブな気持ちが薄れ、積極的な提案習慣が身につくのではないでしょうか。
また、先に紹介した5つのアプローチにもあったように、デザイン思考のプロセスの中には、異なる意見でも受け入れる柔軟性が求められます。どんなアイディアや意見であっても否定せず受け入れることで、そこから新たな課題や改善策が見つかることもあるでしょう。チーム内の全員が発言する権利を持つことで、円滑なコミュニケーションにつながる効果もあります。
役職などに関係なくアイディアが公平に扱われるデザイン思考は、多様性が重視される今の時代には、まさにピッタリの思考法ともいえます。
デザイン思考の活用事例
デザイン思考を活用した事例をご紹介します。ここで紹介するのは大企業の例ですが、根底にある“ユーザー目線”の考え方は、会社の規模や職種に関係なく、ビジネスを展開していく上ですべてのビジネスパーソンに当てはまるものです。
<デザイン思考の活用事例>
企業名 製品・サービス名 |
内容 |
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アップル社 「iPod」 |
ライバル社の製品分析と、ユーザーが音楽をどのように聴いているのかを徹底調査。その結果、CDからパソコン、音楽プレーヤーへと、曲の移動が面倒に感じていることを発見。「場所を選ばず好きな曲を聴きたい」というニーズが浮かびあがる。 「ポケットにすべての曲を入れて持ち運ぶ」というコンセプトのもと、円盤型のスクロールホイールでの画面操作や、iPodとパソコンを自動的に同期させる機能など、革新的なアイディアを盛り込んで2001年10月に発表されると、大ヒット商品に。 |
任天堂「Wii」 | ゲーム機のことで、親子の関係が悪化したり、リビングでの子供の滞在時間が短いといった問題点が、社員の家族への観察を通じて明らかに。 その結果、「家族で楽しめて、親子関係が良くなるゲーム機」というコンセプトが誕生。アイディア創出とプロトタイピングは幾度も繰り返され、家族で使えるリモコン型のコントローラーや、コンパクトな本体形状、省エネ型のCPUなどが具体化される。 Wiiの特徴にもなっているコントローラーは1000を超える試作品が作られたといい、片手での操作性が繰り返し検証された。 |
Yahoo! JAPAN 「ユーザーファーストのサービス」 |
ポータルサイトとして知られるYahoo! JAPANは、企業規模が拡大するにつれて、社内決裁など事務関係などに時間が費やされ、業務のスピードが落ちていることが徐々に明らかに。 そこで、「ユーザーファーストのサービス」を作り上げようという目標が掲げられた。サービス実現へのプロセスでは、ユーザーの目線を意識したデザイン思考に注目し、社内有志でセミナーなどを定期的に開催。その結果、参加者が担当する案件ごとにデザイン思考を意識することで、社内に浸透していった。 2014年からは、デザイン思考のファシリテーターの育成を進めるなど、全社での展開へと発展している。 |
参考:Build Insider「デザイン思考の活用事例」
https://www.buildinsider.net/enterprise/designthinking/03