10万円分の出産クーポンが配布されるようになったというニュースを見ました。そもそも、出産時には社会保険からの給付があったと思いますが、具体的にはどのようなもので、いくらくらいもらえるのでしょうか。
今年(2023年)1月から始まった出産クーポンとは別に、公的医療保険からの給付に「出産育児一時金」と「出産手当金」があります。前者は一律42万円、後者は産休期間中、月給の3分の2程度の額が日割で支給されます。
出産育児一時金は引上げへ
出産育児一時金は、出産費用に対し給付されるものです。通常は、現金ではなく、病院などに直接払われます。その額は一律42万円(注1)で、費用が42万円では足りない場合は、差額のみを病院等に支払うことになります。もし、費用が42万円より安く済んだ場合は、差額を請求することができます。
実際には、出産費用は42万円を超えることが多く、差額を払うケースが多くなっています。
そのため、支給額の引上げが検討されていて、今年(2023年)4月から引き上げられる見通しです。
この出産育児一時金は公的医療保険から給付されるものです。健康保険だけでなく、国民健康保険の被保険者にも給付されます。また、健康保険の被保険者の扶養家族で、その健康保険の被扶養者である人(たとえば会社員の妻で専業主婦の人)が出産した場合も、同様の給付があります(「家族出産育児一時金」といいます)。
国民健康保険にはない出産手当金
出産手当金は、産前6週間(注2)、産後8週間の産休期間に給付されるものです。出産のために会社を休み、給与がもらえない場合に支給されます。その額は1日当たり、月給の1日分(給与額の30分の1)の3分の2相当額(注3)で、この額が土日などの休日も含め、休んだ日数分支給されます。
たとえば、月給が30万円の場合は、その30分の1である1万円に3分の2を乗じた6667円(円未満四捨五入)が1日当たりの支給額となります。
出産手当金は給与をもらって働いている人が産休を取った場合の給与の補填を目的としたものであり、国民健康保険では、その支給はありません。また、健康保険の被扶養者にも支給はありません。
なお、産休のあとに、育児休業を取った場合には、一定の要件の下、育児休業給付金の支給があります。育児休業給付金は健康保険ではなく、雇用保険から給付されるものです。
(注1)42万円には産科医療補償制度の保険料1万2000円が含まれます。したがって、同制度の対象にならない出産の場合(同制度の保険契約を締結していない病院等での出産の場合)は40万8000円です。産科医療補償制度とは、出産について重度の脳性まひにかかった場合の補償を目的とした制度です。
(注2)単胎妊娠の場合。多胎妊娠の場合は産前14週間。
(注3)正確には、標準報酬月額の30分の1に3分の2を乗じた額。この場合の標準報酬月額は、原則として、支給開始日の属する月以前12ヵ月の平均を用います。標準報酬月額とは、社会保険料の計算の基礎となる給与の額のことで、実際の給与額を段階的に定められた切りのいい数値に置き換えたもので、原則として年1回改定されます。
Profile
武田祐介
社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
ファイナンシャル・プランナーの教育研修、教材作成、書籍編集の業務に長く従事し、2008年独立。武田祐介社会保険労務士事務所所長。生命保険各社で年金やFP受験対策の研修、セミナーの講師を務めている。