会社員である夫が死亡した場合、残された妻には通常、遺族厚生年金が支給されるが、会社員である妻が死亡した場合は夫に必ずしも遺族厚生年金が支給されるとは限らない、という話を聞きました。公的年金には男女の差別があるということなのでしょうか。
遺族年金には、男女による扱いの違いはたしかにあります。たとえば、会社員(=厚生年金の被保険者)である妻が死亡した場合、その時点で夫が55歳以上でなければ遺族厚生年金は支給されません。一方、女性である妻が受け取る場合はこのような年齢要件はありません。
夫には「55歳以上」要件
遺族厚生年金の支給対象者は妻に限られているわけではなく、会社員である妻が死亡した場合に夫に支給されることもあり得ます。ただし、妻死亡時に夫が55歳未満の場合は、遺族厚生年金が支給されることはありません。すなわち、夫には「55歳以上」という年齢制限があります(しかも、55歳以上であっても原則として60歳になるまでは支給停止となります)。
逆に夫が亡くなり、妻が遺族厚生年金を受け取る場合はこうした年齢制限はありません。妻は55歳未満であっても受給できます。
なお、会社員である妻の死亡時に夫が55歳未満の場合、子(=18歳到達年度末まで、などの要件を満たす子)がいれば夫ではなく子に遺族厚生年金が支給されますが、その遺族厚生年金は子が18歳到達年度末に達するなど、年齢要件を満たさなくなれば支給されなくなります。一方で、妻が遺族厚生年金を受給する場合は、子どもの年齢に関係なく、原則として終身にわたり受給できます(この点も男女による違いといえます)。
なお、遺族基礎年金は、夫が受給する場合も年齢制限はなく、男女で同じ扱いとなっています(ただし、そもそも「子」がいなければ遺族基礎年金は男女を問わず支給されません)。
法改正に向け議論開始
これらの点も含め、遺族年金における男女格差を改めて整理すると以下のとおりです。
- ①遺族厚生年金では、残された夫(男性)には「55歳以上」という年齢要件があるが、残された妻(女性)にはこの要件はない。
- ②残された妻(女性)の遺族厚生年金には一定の要件の下、中高齢寡婦加算が付くが、残された夫(男性)にはこの加算はない。
- ③残された妻(女性)には一定の要件の下、寡婦年金が支給されることがあるが、残された夫(男性)には支給されない。
なぜ、このような男女による扱いの差があるのでしょうか。それは(遺族年金に限らず)、公的年金は夫が一家の生計の担い手であるという前提で制度設計されているからです。よく目にするフレーズを挙げるなら、一家の(生計を支える)大黒柱である夫と内助の功の役割を果たす妻という、いかにも昭和の夫婦像に合致した制度になっているのです。
専業主婦が少なくなり、夫と妻がお互いに生計を支え合うのが一般的な令和の時代に、年金制度が追い付いていないといえます。
こうした点はすでに厚生労働省などでも認識されていて、社会保障審議会の年金部会などで制度改正への議論が進められています。次回の法改正は2025年に行われることが予定されていますが、第3号被保険者(=保険料の負担がない、会社員の妻である専業主婦等)問題とともに遺族年金の男女格差についての議論の行方が注目されます。
Profile
武田祐介
社会保険労務士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
ファイナンシャル・プランナーの教育研修、教材作成、書籍編集の業務に長く従事し、2008年独立。武田祐介社会保険労務士事務所所長。生命保険各社で年金やFP受験対策の研修、セミナーの講師を務めている。