アパート経営やマンション賃貸などによる節税は広く知られている。なぜ不動産投資により税金が少なくなるのか。その理由は損益通算と減価償却という所得税の仕組みにある。
不動産投資で税金が減るのは……
A アパートを建築したり、ワンルームマンションを購入したりして賃貸する不動産投資は、その収益の魅力だけでなく、節税のメリットが動機になっていることが少なくない。
B 不動産投資によって税金が安くなるということですか。
A そう、不動産投資には所得税と相続税を少なくする2つの面があるが、今回は所得税について説明しよう。
B 賃貸アパートを建てることで相続税対策になる、という話はよく聞きますが、所得税も節税できるのですか?
A 必ず節税になる、ということではないけれど所得税が少なくなるケースも少なくないよ。
B 賃貸収入があれば、その分、所得税も増えるような気がしますが……。
A たしかに収入は増えるが、それ以上に経費が増えれば税金は少なくなる。すなわち、賃貸による不動産所得がマイナスになれば、そのマイナスを他の所得から引くことができるので、結果として所得が減り所得税は少なくて済むことになる。
B 「他の所得」というのは?
A たとえば給与所得だよ。会社員で給与所得がある人がワンルームマンションを購入して不動産所得が赤字になれば、給与所得のプラスと不動産所得のマイナスを相殺できる。給与所得が減るので所得税が少なくなる―確定申告により源泉徴収されていた税金が戻ってくる―ということになる。この黒字の所得と赤字の所得を相殺することは「損益通算」という、所得税の基本的な仕組みなんだ。不動産投資による節税は、この仕組みによって成り立っているわけだよ。
支出してなくても必要経費に
B なるほど。「損益通算」というのは重要な仕組みなんですね。ところで、不動産所得が赤字になる、ということはけっきょく損していることになるんですよね。わざわざ投資して損が出ては、税金が安くなったとしても意味ないじゃないですか。
A 赤字になる、というのは税金の計算上の話なんだ。税金の計算上、赤字であっても、キャッシュフローつまり資金収支上は黒字であれば問題ないだろう?
B いま一つよくわかりませんが、そんなことが可能なのですか?
A 可能なんだ。というのは、資金収支上の支出と、所得税の計算上の必要経費が異なるからなんだ。所得税は1月1日から12月31日までの1年間を単位に計算するけど、実際にはこの1年間に支出していないお金を税金上は必要経費にできることがあるんだ。
B そんなムシのいい話が?
A あるんだ。「減価償却」という言葉を聞いたことがあるかな?
B なんとなく……。
A アパートを建築した場合、そのアパートは減価償却資産になる。たとえば更地を持っている人がそこに5000万円でアパートを建てたとする。この5000万円は建てたときに手持ちの資金あるいは銀行からの借り入れなどで支払うわけだけど、税金上は、毎年少しずつ長年にわたって必要経費化することになっているんだ。つまり、購入後は実際にお金がでていくわけではないのに、税金上は必要経費として家賃収入から差し引くことができる。その結果、資金収支上はプラスでも所得税計算上はマイナスという事態が生じ得る。
B それが減価償却という仕組みですか。
A 建物は年々価値が減じていくので、それに応じて少しずつ償却していく、という意味だよ。
B 何年かけて償却するんですか?
A それは資産の種類により異なる。所得税法で耐用年数というのが決められていて、たとえば木造アパートは22年、鉄筋コンクリートの居住用マンションなら47年などと決められている。で、木造なら毎年、購入価格の22分の1すなわち0・046ずつ必要経費にできる。5000万円なら230万円が実際には支出していないのに経費化できるというわけだ。
B それによって不動産所得を赤字にして、さらに損益通算によって税金が少なくなる、ということですね。損益通算というのは納税者にとっては便利でいい仕組みですね。
A ただし、赤字であればなんでも通算できるというわけではないんだ。詳しくは来月号(2022年7月号)で。