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Web magazine“Present” 広報誌「Present」Web版

2022年7月号掲載

損益通算できるかできないか

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先月(2022年6月)号で、不動産投資で赤字が出た場合、税金の計算上、そのマイナスが給与のプラスと相殺でき、結果として所得が減り、税金が少なくなることを説明した。この損益通算の仕組みは他の損失にも適用されるのか。

「内部通算」との違い

A 前回、不動産投資による赤字を給与と相殺できること、その結果、税金が少なくなる効果が生じることを説明した。

B 損益通算というのでしたね。

A そう、少し正確にいうと、損益通算とは、所得税の計算において「ある所得金額の計算上生じた損失を他の所得の金額から控除すること」だ。不動産投資の例でいうと、不動産所得の損失を給与所得から控除する、ということになる。

B なんだか難しいですね。けっきょく、損が出たらほかから引けるということですよね。不動産投資に限らず、ほかの損でも対象になるのですか。たとえば、株式投資で損をした場合も給与から引けますか。

A 不動産所得の損失以外にも損益通算できるものもあるが、できないものもある。株式投資による損―買った値段より安く売ったために生じた譲渡損失―は給与所得とは通算できない。一方で、上場株の譲渡損失は上場株の配当による所得とは通算できる。

B 損失がすべて通算できるというわけではないんですね。

A そういうことだよ。いろいろと細かくルールが決められている。

B たとえば、生命保険を解約して損が出た場合 —— 払い込んだ保険料よりも解約返戻金が少なくて損が出たというケースはどうですか。

A それは損益通算できない。生命保険の解約により損が生じても、給与所得などから引くことはできない。ただし、同じ年に2つの生命保険を解約して、一方で損失がでて、もう一方ではプラスになっていた場合には両者は通算できる。

B ややこしいですね。

A 損益通算とは先ほど説明したように、ある所得の損失を他の所得から引くことなんだ。生命保険を解約してプラスになった場合もマイナスになった場合も所得の分類上は同じなので、同じ所得のプラスとマイナスは通算できる。これは「損益通算」と区別して「内部通算」と呼んでいる。たとえば、先ほどの株の譲渡損は他の所得との通算、つまり「損益通算」はできなくても、一方で株の売買によりプラスが出ていた場合は同じ所得内で「内部通算」はできる(注)。

(注)NISA口座などでもともと譲渡益が非課税の扱いとなっている場合は、内部通算もできない。

4つの所得に限る

B 損益通算と内部通算とは異なっていて、内部通算はできても損益通算はできないこともあるということですか。なにか規則性はあるのですか。

A 基本的に、内部通算はできる。一方で損益通算は表に示した4つの所得の損失に限ってできる。そのほかの所得がマイナスになっても他の所得とは通算できない。

B できるのは、不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4つですか。

A そもそも所得税では、その所得が何を原因として生じたかにより所得を表の10種類に分類しているんだ。そのうち、○が付いている4つの所得で生じた損失は他の所得のプラスと通算できる。ほかの6つの所得で損失が生じても他の所得とは通算できないということだよ。一方、内部通算は10のうちの一つの所得の中でプラスとマイナスを通算することでどの所得でも可能だよ。

10種類の所得と損益通算の可否

所得の種類 内容 損益通算
利子所得 預金等の利子を受けたことによる所得 ×
配当所得 株式等の配当等を受けたことによる所得 ×
不動産所得 土地建物等の貸付による所得
事業所得 個人事業による所得
給与所得 給与や賞与を受けたことによる所得 ×
退職所得 退職金を受けたことによる所得 ×
山林所得 山林の伐採、譲渡による所得
譲渡所得 資産を譲渡したこと(売買によるもうけ)による所得
一時所得 一時的な所得
(保険金等を受け取ったことによる所得など)
×
雑所得 他の9つの所得以外の所得
(年金を受け取ったことによる所得など)
×

B 先ほどの生命保険の解約の場合は一時所得になるんですね。

A そう、解約返戻金を受け取った場合だけでなく、満期保険金を受け取ったケース、保険料負担者である契約者以外が被保険者で契約者が死亡保険金を受け取ったケースなどもその所得は一時所得になる。

B その一時所得同士なら通算できるけど、他の所得とは通算できないということですね。

A そのとおりだよ。

B ところで、株式の譲渡による所得は譲渡所得ですよね。表では譲渡所得は損益通算できるとなっていますが、先ほど給与所得とは通算できないといってましたよね。

A それは例外的な取扱いなんだ。詳しくはまた次号で。(次号に続く)

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