2024年から、相続時精算課税制度に110万円の基礎控除が導入される。しかも、その基礎控除分は生前贈与加算(持ち戻し)の対象から外される。一方、暦年課税制度では、持ち戻しの対象が相続前「7年以内」に拡大される。となると、暦年課税で贈与する意味はなくなるのか。
あえて贈与税を払っても
A
生前贈与に関する税制改正について、前回までの復習をしておこう。
① 暦年課税では、相続税の計算における生前贈与加算の対象が相続開始前「3年以内」の贈与から、「7年以内」に拡大される。
② 相続時精算課税では、110万円の基礎控除が導入され、年間110万円までの贈与であれば非課税になる。
B ①は課税が厳しくなる方向、②は逆に生前贈与を考えている人にとっては有利な改正ということですね。
A そうだね。②の110万円の部分は、相続時に持ち戻す必要もないからね。
B そうなると、精算課税のほうが確実に有利ですね。みんな精算課税を選択するようになるんじゃないですか?暦年課税は意味がなくなるのでは?
A 財産の額が何億円、何十億円という単位の場合、暦年課税もまだまだ使いみちがあるよ。
B どういうことですか。
A 年間110万円までの贈与であれば、たしかに精算課税を選択したほうがいいといえる。死亡前7年以内の贈与であっても生前贈与加算の対象にならないからね。ただ、110万円を超えた額を贈与する場合は、暦年課税のほうが税負担軽減効果が生じることもある。
B 110万円を超えれば贈与税がかかりますよね。
A それでも、贈与税の負担より、将来想定される相続税の負担のほうが大きいと見込まれるのであれば、あえて贈与税を払ってでも贈与して相続財産を減らす意味はある。
B なるほど……。
A 相続税も暦年課税の贈与税も課税の対象になる金額が多いほど税率が段階的に高くなる。最低は10%で最高は55%だ。かりに相続時に55%の税率が適用されることが予想されるのであれば、それより低い税率で贈与することにより、相続財産を減らすことは効果的といえるよ。もちろん、相続税と贈与税の計算の仕組みは違うので単純に税率の比較だけでは結論は出せない —— だから比較するには個別のケースに応じて具体的に検討する必要があるけど、贈与税を払ってでも贈与したほうがいいケースはあるよ。
孫への贈与は対象外
B そうした超資産家には精算課税は不向きということですか?
A 精算課税では110万円を上回った部分は確実に相続財産に加算して相続税を計算することになるので、相続税の負担を大きく減らすことにはならない。一方で、暦年課税なら、贈与から7年経てば、贈与額がいくらであっても相続財産からは確実に外れる。
B だから、あえて暦年課税にしたほうがいい、と。
A そういうケースもある、ということだね。もうひとつ、暦年課税のメリットを挙げておくと、暦年課税では、贈与者が死亡したときに財産を取得しない人が受けた贈与は生前贈与加算の対象外なんだ。たとえば、孫に贈与して、その孫が祖父の死亡時には財産をもらわなければ、たとえ祖父が贈与から7年以内に死亡したとしても相続財産に持ち戻す必要はないということだよ。
暦年課税と相続時精算課税の比較
(改正後(2024年以後)の贈与の取扱い)
暦年課税 | 相続時精算課税 | |
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対象者 | だれでも |
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手続き | 1年間の受贈額が基礎控除(110万円)を超える場合は申告が必要 |
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税額計算 | 1年間の受贈額から基礎控除(110万円)を差し引き、10~55%の税率を乗じる |
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相続発生時の取扱い |
(注)贈与税の非課税の特例の適用を受けた場合など、加算の対象外になる贈与財産もある